『春の旅人』(村山早紀)

春の旅人 (立東舎)

春の旅人 (立東舎)

村山早紀の小品集。星空の下、巨大な亀とともに佇む男を描いたカバーイラストが目を引きます。人気イラストレーターげみの挿絵も多数収められた贅沢な本になっています。
表題作「春の旅人」*1は、51年に1度産卵のために地球に訪れる亀型宇宙生物をめぐる物語です。SFとファンタジーの調和した、村山早紀らしい奇想の光る作品です。
初活字化作品となる「花ゲリラの夜」は、公園やよその家の庭などにこっそり花の種や球根を植える〈花ゲリラ〉の物語。学校生活に悩みを抱えている里奈は、自分ちのアパートに下宿している大学生で〈花ゲリラ〉のさゆりさんに憧れていました。しかしさゆりさんは、里奈の憧れは「自分のなりたい姿」を誰かに重ねているもので「幻の姿」なのだと否定します。善意だけでは生き延びるのが難しいこの世界で気高く生きようとする姿勢がすがすがしく描かれていて、これぞ村山早紀の児童文学といった感じです。
ドロップロップ

ドロップロップ

げみのイラストが最も映えているのが、色とりどりのドロップを題材にした詩のような作品「ドロップロップ」です。ページをめくるたびに、光を意識させる鮮やかな色彩が目に飛び込んできます。毎日違うページを開いて部屋に飾っておきたくなるような愛おしさを持っています。

*1:初出は「日本児童文学」1996年4月号。初出時のタイトルは「春の伝説」。