児童文学とライトノベルを越境する作家たち

 このところあさのあつこ佐藤多佳子森絵都ら、児童文学から一般文芸界へ進出した作家が脚光を浴びています。しかし垣根が崩れているのは児童文学と一般文芸だけではありません。児童文学のライトノベル化に伴い*1、児童文学とライトノベルを越境して活躍する作家も目立つようになりました。今回はそんな作家たちについて、児童書文庫のレーベルごとに簡単にまとめたいと思います。

カラフル文庫(ジャイブ)

わが輩はヴィドック (カラフル文庫)

わが輩はヴィドック (カラフル文庫)

IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。 (カラフル文庫)

IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。 (カラフル文庫)

アダルミシアの大切なお友達 (カラフル文庫)

アダルミシアの大切なお友達 (カラフル文庫)

 2004年の創刊当初から阿智太郎深沢美潮を使い、2005年にはひかわ玲子を投入しました。知名度実績ともに申し分ないラノベ作家を揃えています。児童文学のラノベ化を語る上で避けて通れない重要なレーベルといえるでしょう。

エンタティーン倶楽部(学研)

トリシア、ただいま修業中! (エンタティーン倶楽部)

トリシア、ただいま修業中! (エンタティーン倶楽部)

 2002年に学研「6年の学習」は、富士見ファンタジア文庫の「トリシア先生」シリーズの外伝を連載するという冒険に打って出ました。それを単行本にまとめたのがこの本です。ライトノベルと連動した児童文学という非常に珍しいケースです。
 ちなみにエンタティーン倶楽部はミステリ界から芦辺拓、ファンタジー界から沢村凛、SF界から森奈津子を招聘した実績があり、スカウトの目利きの確かさには定評があります。

ポプラポケット文庫(ポプラ社

闘竜伝 夢への1歩―Dragon Battlers (ポプラポケット文庫)

闘竜伝 夢への1歩―Dragon Battlers (ポプラポケット文庫)

 2005年10月のレーベル立ち上げ当初は流行のライトノベル路線とは一線を画したラインアップを揃えていましたが、2006年10月の「闘竜伝」以降はライトノベルに歩み寄りを見せています。作者の渡辺仙州は「封神演義」や「西遊記」などの中国ものの児童向けリライトで90年代末から活躍していましたが、2006年にGA文庫「神種」でライトノベルデビューしました。小学館の新レーベルガガガ文庫でも新作「鬼器戦記」を発表しています。
 夏緑は京大の大学院理学研究科博士課程を出て、日本分子生物学会会員、宇宙作家クラブ会員でもあるという超理系作家です。作家デビューは1995年の富士見ファンタジア文庫「海賊船ガルフストリーム」です。
 ポケット文庫以前のポプラ社の文庫作品にはこんなものもあります。 1999年から2001年にかけて発刊された「P‐club」というレーベルです。今となってはほとんど忘れられていますが、このあたりが現在台頭しているライトノベル児童文学の先駆けのひとつになっているものと思われます。作者は富士見ファンタジア文庫で良質のファーストコンタクトSF「魔魚戦記」をものした吉村夜です。

フォア文庫岩崎書店金の星社童心社理論社

黒き魔神の森―少女戦士シュリー (フォア文庫)

黒き魔神の森―少女戦士シュリー (フォア文庫)

コウヤの伝説〈1〉金色の竜 (フォア文庫)

コウヤの伝説〈1〉金色の竜 (フォア文庫)

 1979年に創刊されたフォア文庫は児童書文庫の老舗中の老舗ですが、現在ではライトノベル化が最も目立つレーベルになっています。
 大林憲司は富士見ファンタジア文庫「東北呪禁道士」で1993年にデビューした伝奇小説を得意とする作家です。「少女戦士シュリー」はヒンズー世界を舞台にしたファンタジーです。
 時海結以富士見ミステリー文庫「業多姫」で2003年にデビュー。元考古学の研究者で、歴史ものを得意としています。児童文学では他に青い鳥文庫で「あさきゆめみし」のノヴェライズを書いています。
 「フルティメット・アームズ」は児童書文庫では珍しい男子向け巨大ロボットSFです。作者の蕪木統文はゲームのノヴェライズを中心に活躍しています。

青い鳥文庫講談社

 1980年創刊。フォア文庫と並んで児童書文庫を代表するレーベルです。最近はイラストにCLAMPを起用したりと、児童書のライトノベル化にも一役買っています。が、児童文学とライトノベルの両方で活躍している作家いないようです。先ほど紹介した時海結以の「あさきゆめみし」はノヴェライズなので除外すると、他には思い浮かびません。それだけ既存作家の層が厚いということなのかもしれません。

まとめ

 ここで取り上げたのは、ほとんどがライトノベルの新人賞でデビューしライトノベルを主な活動場所としている作家ばかりです。児童文学のライトノベル化を模索している各出版社が、既存の児童文学作家だけではまかないきれず、即戦力としてライトノベル界から作家を招聘している構図が推察されます。しかし一方で、時海結以のようにライトノベルと児童文学の両分野に同程度の労力を傾けている作家や、渡辺仙州のように児童文学畑で育ち、ライトノベルに進出していった作家の存在も見逃せません。こうした作家が今後増えていくのか注目されます。
 なんにせよ、児童文学ライトノベル間の人材交流が活発になって双方のレベルが上がっていくような方向に落ち着けばいうことはありません。

補足

 本来はたつみや章(=秋月こお)ら少女小説・BL系の作家にも言及しなければならないところですが、この分野は守備範囲外なので今回はパスしました。

補足2

 ついでにイラストレーターについても調べようと思いましたが、ぱっと思いついただけで緒方剛志藤田香とけっこういそうなのでこちらもあきらめました。
 イラストレーターでこれから話題を集めそうなのは戸部淑です。9月から開始される「妖界ナビ・ルナ2」のイラストを担当することが決まっています。「妖界ナビ・ルナ」シリーズは児童文学のラノベ化の象徴ともいえるヒット作です。新しい絵柄が小学生女子に受け入れられるのか注目されます。