「わたしってだれ? きおくをなくした少女」(佐野美津男)

わたしってだれ?―きおくをなくした少女 (1981年) (小学中級文庫)

わたしってだれ?―きおくをなくした少女 (1981年) (小学中級文庫)

くるくるまわる かんらん車
遠くに光る 白い川
わたしは わたしをさがしている

わたしは あなたの だれですか
あなたは わたしの だれですか

くるくるまわる かんらん車
遠くに光る 白い川
わたしは わたしをさがしている

 タイトルのとおり、記憶喪失になり精神病院に入院している少女セシエ(仮名)の物語です。彼女の親を名乗る大人は何人も現れますが、自分が親だと言い張ってけんかばかりしています。やがて一組の夫婦がセシエにクロロフォルムをかがせ、無理矢理連れ去ってしまいます。
 セシエも佐野美津男が描く子供に特有の理屈っぽさを持っていて、冷淡なのか情に厚いのかとらえどころのないところが魅力になっています。
 作品のテーマはラストの記憶を取り戻したセシエにかけた精神病院の先生の言葉が語り尽くしています。

「とにかく、ひとまずは病院にかえろう。そして、よく考えるんだ。セシエ、きみには、考える力があるのだから。」(p93)