「海竜めざめる」(ジョン・ウィンダム)

海竜めざめる (ボクラノSF)

海竜めざめる (ボクラノSF)

 福音館書店の新しいSF叢書「ボクラノSF」の第一回配本の一冊です。ジョン・ウインダム星新一訳でイラストは長新太。さらにシリーズの監修は大森望で、ブックデザインを手がけたのは祖父江慎です。これ以上なにを説明する必要があるでしょうか。第一回配本では他にフレドリック・ブラウン筒井康隆の短編集が出ています。福音館書店おそるべし。今度こそ本当に児童書業界のSF氷河期が終わる兆しが見えてきたかもしれません。
 「海竜めざめる」は破滅テーマSFの傑作です。宇宙から飛来し海中に潜んだ謎の存在が人類を破滅に導くお話。といっても侵略者との派手な戦いがメインになっているわけではありません。彼らの攻撃によって社会が崩壊し治安が悪化して、ゆるやかに人類が滅びに向かうさまを淡々と描いているところがこの作品の読みどころです。その淡々とした筆致からは詩情さえ感じられ、人類の滅亡が幸福な出来事であるかのようにも読めてしまうのが不思議です。