「ハミダシ組! 」(横沢彰)

ハミダシ組!

ハミダシ組!

 この作品には、物語の中心人物という意味での主人公はいません。あえて主人公を決めるとすれば、やがて「ハミダシ組」と呼ばれることになる空き教室という空間そのものが主人公だということになるでしょう。はじめこの空き教室に入り浸っていたのは、3年C組に所属するふたりの不良少年、リョウとチタでした。そこへ受験のプレッシャーで神経性胃腸炎になり、教室に行くことができなくなった秀才博が加わります。続いて、学級を崩壊させたとして校長から半ば強制的に病気休暇を取らされた3年C組の担任直子先生も、こっそりこの教室に入り込んでリョウやチタや博と関わろうとします。こうして「ハミダシ組」はどんどん拡大していきます。
 教育問題をこのようにストレートに取り上げた作品はいまどき珍しく、ちょっと古くさく感じられる面もなくはありません。そもそも、空き教室を学校からはみだした子供の居場所とする設定は、大石真の「教室二〇五号」(単行本は69年刊)へのオマージュとしか考えられません。しかしこの作品は注目すべき新しさも持っていて、「教室二〇五号」を21世紀に語り直す試みは成功しています。では、この作品の新しさを見ていきましょう。
 ひとつは、「心の病」として軽視されがちな病気を、「病は気から」といった精神論を排して、きちんと実体のあるものとして描こうとしているところです。直子先生の自律神経失調症は服薬によってある程度改善するものとして描かれています。神経性胃腸炎の博は、「あなたのおなかは、病院で大丈夫って言われたじゃない」と言う母親に対し、「でも、じゃ、痛かったらどうしたらいいんだよ」と反論します。
 もうひとつは、「ハミダシ組」による学級の解体を、学校を巡る問題を解決する手段として提示して見せたことです。社会学者の内藤朝雄は、いじめ問題を解決するための具体策として学級制度の廃止を提唱しています。この作品は内藤朝雄の主張を小説の形で実験したものとも読めそうです。