「名探偵 宵宮月乃 トモダチゲーム」(関田涙)

名探偵 宵宮月乃 トモダチゲーム (講談社青い鳥文庫)

名探偵 宵宮月乃 トモダチゲーム (講談社青い鳥文庫)

「マジカルストーンを探せ!」の番外編「名探偵 宵宮月乃」の第三巻。誘拐された少年を救うため、日向と月乃はマッドジェスターと名乗る怪人の挑戦を受けることになります。マッドジェスターはいろいろな趣向の頭脳ゲームを出題しますが、ひとつやっかいな条件を付けていました。それはゲームには必ず複数の人間で挑むこと。プレイヤーが「天使の頭脳」の持ち主の月乃だけなら余裕勝ちできるのに、足手まといの「トモダチ」も舞台に立たせなければなりません。この逆境に月乃はどう挑むのか?それぞれのゲームでスリルたっぷりの心理戦が繰り広げられます。
結論としては、「月乃超かっこいい!」の一言ですみます。逆境を設定することで月乃の頭の良さと度胸が引き立てられています。青い鳥文庫では関田涙の新シリーズが予定されていますが、このキャラクターにもう会えなくなるのはあまりに寂しいので、番外編だけでも継続させてもらいたいです。
問題は、このシリーズの友情物語としての側面です。このシリーズは現実のわずらわしい人間関係にはあえて目をつぶり、理想的な友情を描くことで読者を楽しませようとしているものと、わたしは理解していました。しかし、この番外編三巻では、タイトルから「トモダチ」というテーマに正面から挑もうという意志を打ち出しています。しかも本の表紙には、「トモダチ」を駒にしてゲームの盤上で弄んでいる月乃が描かれています。これでは今までの見解を撤回せざるを得ません。
物語の最後、月乃は自分は病弱だから一人では生きていけないので薄氷を踏むような覚悟で他人を信用していること、「トモダチ」をつくることを大変難しいことだと思っていることを吐露します。しかし、このシリーズの語り手は、健康で「トモダチ」をつくることなんて簡単だと思っている日向です。日向には月乃の屈託が理解できないので、日向の語りは無邪気に無自覚に月乃の暗い面を隠蔽してしまいます。
「マジスト」シリーズの語り手が月乃ではなく日向なのはなぜか。答えは考えるまでもありません。このシリーズが本格ミステリだからです。ワトソン役が語り手になるのは当然です。でも、語り手が日向である理由はそれだけではなかったのかもしれません。もしかしたら日向の語りはいろいろなものを隠蔽していたのかもしれません。その視点でこのシリーズを読み直してみると……、いや、怖いからそれは止めておきましょう。