ヤングアダルトの範囲を活字以外の作品にも拡張するなら、2011年最高のヤングアダルト作品は、幾原邦彦監督のTVアニメ『輪るピングドラム』になります。幾原邦彦は、社会から見捨てられた子供たちがこどもブロイラーという工場のような場所で透明な存在にされるという設定で、子供の置かれている状況に対する厳しい認識を示しています。しかし、その中で生き抜くための力強い励ましを作品に込めていました。
90年代の幾原作品『少女革命ウテナ』で叫ばれていた「世界を革命する力」は、もはや子供たちから奪われてしまい、『輪るピングドラム』のキーワードは「生存戦略」になっています。では、厳しい現実の中で「生存戦略」に明け暮れる子供たちに児童文学はどのような指針を示すことができたのか、2011年の児童文学を振り返ってみましょう。
ようこそ、古城ホテルへ 湖のほとりの少女たち (角川つばさ文庫)
- 作者: 紅玉いづき,村松加奈子
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2011/09/15
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 88回
- この商品を含むブログ (16件) を見る
就活という与えられたルールを否定していることがこの作品の肝です。勝利条件がルールの否定であるという話は、児童文学では岡田淳が得意としていますが、『古城ホテル』の成果はそれを就活という世俗的な次元の問題に引きずり降ろしたことです。ただし、勝利を実現するためにはあくまで個人の才覚が必要であるというところに限界はあります。
- 作者: 蜂飼耳,菊池恭子
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 2011/11/01
- メディア: 単行本
- クリック: 23回
- この商品を含むブログを見る
- 作者: 沢村鐵,黒星紅白
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/09/26
- メディア: 単行本
- クリック: 29回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
- 作者: 如月かずさ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/06/17
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 36回
- この商品を含むブログ (4件) を見る
- 作者: 河合二湖
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/06/17
- メディア: 単行本
- クリック: 20回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
『カエルの歌姫』は両声類というかたちで「女装」する性的マイノリティの「少年」が主人公です。「彼」は、覆面アイドルとして活動し、自らの存在を虚構化するという戦略をとり、マジョリティの中に入っていこうとしました。
『深海魚チルドレン』は世間で支配的な価値観から外れた少女が主人公です。彼女は母親を含めたマジョリティから逃走する道を選びます。逃走という選択は批判を呼びそうですが、この作品では身体的な問題により逃走せざるを得ない状況をつくり、批判をあらかじめ封じているのがうまいです。
あの日、ブルームーンに。 (teens' best selections)
- 作者: 宮下恵茉,カタノトモコ
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2011/05/14
- メディア: 単行本
- クリック: 51回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 作者: 宮下恵茉,ヒロミチイト
- 出版社/メーカー: 学習研究社
- 発売日: 2011/05/25
- メディア: 文庫
- クリック: 23回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
- 作者: 天沢退二郎
- 出版社/メーカー: 復刊ドットコム
- 発売日: 2011/12/17
- メディア: 単行本
- クリック: 33回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
新作は、直截な言葉を使うことで奇形的な寓意に満ちた前三部作を解体したかのようにみせながら、想像を絶する恐るべき結末を導いてしまいました。この作品が2011年の児童文学のベストであることは間違いありません。
- 作者: フランシス・ホジソン・バーネット,エセル・フランクリン・ベッツ,高楼方子
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 2011/09/15
- メディア: 単行本
- クリック: 13回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
もはやセーラ・クルーの没落は遠い昔の遠い外国のこととは思えません。多くのものを失ったセーラ・クルーの友となったのは、やはり〈物語〉でした。〈物語の力〉は子供の「生存戦略」の要になるのでしょうか。