『春へつづく』(加藤千恵)

春へつづく (teens' best selections)

春へつづく (teens' best selections)

自分が中学生だなんてまだ信じられない。小学生でいたかったっていうんじゃなくて、逆だ。あたしは一日も早く大人になりたい。それで、一人で暮らして、おばあさんになって死んでいきたい。(p7)

卒業式の日にあかずの教室で儀式をすると願いが叶うという伝説のある中学校を中心とした連作短編集。それぞれの話にはドラマチックな背景はありますが、その断片しか語らず特に結論もないまま終わります。読者に想像させる余地が多く、苦い味わいがあります。
注目したいのは、この作品における大人の女性の扱いです。卒業がテーマで『春へつづく』というタイトルだと、未来への希望をうたいあげた話のようにみえます。しかし、連作で主人公を務める大人の女性ふたりは、どちらも非正規雇用労働者で、しかも男性から手痛い裏切りを受けているのです。雇用状況は厳しく、しかも性差別はきっちりと温存されていると。83年生まれの若い作家だからこそ、甘い嘘をつかずこういう厳しい現実認識を10代の読者に伝えることができるのでしょう。