『遠野物語』(柏葉幸子)

遠野物語

遠野物語

遠野のりんご畑で幼少期を過ごした柏葉幸子による『遠野物語』リライト。柏葉幸子遠野物語東日本大震災をモチーフにした傑作ファンタジー『岬のマヨイガ』を昨年発表したばかりなので、両者を読み比べてみるのもおもしろいでしょう。
語り手は遠野の赤いカッパであるという設定になっていて、ザシキワラシやオシラサマ、マヨイガといった有名な怪異のエピソードを語って聞かせてくれます。平易で親しみやすい語りで、不思議な物語の世界にスムーズにいざなってくれます。しかしこの親しみやすさが罠。遠野物語ですから、中身は不条理に陰惨で血みどろの話ばかりです。
イラストは田中六大です。田中六大といえば、村上しいこと組んだ諸作や岡田淳と組んだ『願いのかなうまがり角』などで、コミカルな作風であるというイメージを持っていました。この『遠野物語』もコミカルでかわいく描かれていますが、ここぞという場面では少しタッチを変えて、ギャップで怖がらせてくれます。オシラサマの威圧感とか、無人マヨイガの静けさとか、本気でぞっとさせられます。
語りでもイラストでも静かなトラウマを残しそうな、たちの悪い本になっています。多くの子どもたちに読まれますように。