その他今月読んだ児童書

壇ノ浦に消えた剣 (歴史探偵アン&リック)

壇ノ浦に消えた剣 (歴史探偵アン&リック)

「歴史探偵アン&リック」シリーズの第2弾。ファッションオタの杏樹と歴史オタの陸、ふたりとも突き抜けた変人なので会話があまり成立していないのに、それでも仲がいいのがほほえましいです。
小森香折は10年以上キャリアのある実力派の作家ですが、意外なことにこれが初のシリーズものになっています。できるだけ長く続けてもらいたいです。
しゅるしゅるぱん (福音館創作童話シリーズ)

しゅるしゅるぱん (福音館創作童話シリーズ)

第15回児童文学ファンタジー大賞佳作受賞作。存在し得ない怪異が、他の怪異の名前を自分の名前だと思いこんでいるという設定はおもしろいです。しかし、高楼方子が選評で指摘しているように、「土台がないのにみごとな建造物が建っている」、美的な世界に情念が見あっていないちぐはぐさが気になります。むしろ、中途半端に情念を描こうとせず、美的な世界を構築することに徹した方が、著者の個性を発揮できるのではないでしょうか。枕草子』の内容を、清少納言の宮中入りから中宮定子の死までの時系列に再構成したリライトです。有名な優雅なエピソードも、いちいち道隆‐定子の没落に結びつけて語られているので、いい具合に暗い雰囲気になっています。史実ですから、伏線もなにもなく人がどんどん死んでいくのは当然です。歴史ものの児童文学の魅力は、こういう世界の理不尽さや無常さを垣間見させてくれるところにあります。
誰がネロとパトラッシュを殺すのか――日本人が知らないフランダースの犬

誰がネロとパトラッシュを殺すのか――日本人が知らないフランダースの犬

各国の文化的感受性の違いという論点から『フランダースの犬』を考察した本です。1975年の日本製アニメ『フランダースの犬』全52話を全話解説した第3章はたいへんな労作になっています。「歴史的な真実性」よりも「架空の本物らしさ」を重視する日本人観光客と、それを受け入れることができないフランダースの人々の文化的対立を分析した第4章も興味深いです。
老嬢物語

老嬢物語

〈老嬢〉を題材にしたエッセイ集。子どものころから〈おばあさん〉を〈童話〉や〈おとぎ話〉や〈物語〉と分かちがたく結びついた温かく輝かしい〈イデア〉であると思っていた著者の語る〈老嬢〉たちは、虚実が判然とせず魅力的です。尾崎翠長谷川町子など、著者が影響を受けた作家への言及もあるので、高楼作品を読み解くヒントにもなりそうです。