- 作者: 小松原宏子,亀岡亜希子
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2017/06/21
- メディア: 単行本
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帰ってきたミナが小学校を占拠する様子がとても楽しそうです。ずっと座ってみたかった校長室のソファで遊び、保健室のベッドで誰にはばかることなく寝て、図書室の本も読み放題、給食室の設備も使い放題。なんでもそろっています。ヒトさえいなければ学校ってすごく居心地がいいんですね。
この作品、わざと読者を混乱させる書き方がなされています。たとえば、3人の卒業生が人間ではなく狐狸のたぐいであるということは、なかなかはっきりしません。カバーイラストや名前、山の動物たちが卒業生の家族や親戚であるという情報などからそれはほぼ確定ではあるのですが、明言されているわけではありません。
時間のスケールも混乱しています。ミナはホテル業、うさ子は実家の万屋、コンタは大工見習いと、3人は小卒でふつうに働いています。しかし、校長の言葉を勘違いしたミナだけ地の文で「ミナさん」と呼ばれるようになり、うさ子とコンタは呼び捨てのままなので、まるでミナだけが一足先に大人になったように感じられます。さらに、ホテルの客の前でうっかり口を滑らせて、小学校を卒業したばかりのはずのミナが人間の寿命を軽くこえる年齢であることも明らかになります。
やまのなかホテルは厄介な人間の客をふたり迎えることになります。この空間は時間が混濁しているので、人間は小学校で、ある種の生き直しをすることができます。現実にくたびれた人間の再生の物語として、よくできた設定になっています。