その他今月読んだ児童書

ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ (海外文学コレクション)

ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ (海外文学コレクション)

白人警官が無抵抗の黒人少年を射殺、その目撃者となった黒人少女が悪意の渦に巻き込まれていく物語です。加害者であるはずの警官がなぜか被害者扱いされ正当な裁きがおこなわれないという大きな状況と同時に、学校で差別発言を繰り返す同級生との軋轢という身近な状況も語られます。そして、差別を開き直りあまつさえ自分が差別主義者扱いされたことに傷ついたと見当違いの文句を言うような輩とは相互理解不可能という結論に至ります。奇麗事では済まされない差別の実態が描かれています。
グランパと僕らの宝探し~ドゥリンビルの仲間たち~ (朝日小学生新聞の連載小説)

グランパと僕らの宝探し~ドゥリンビルの仲間たち~ (朝日小学生新聞の連載小説)

そういった作品を参照すると、明らかに国籍による差別を受けているのに、迫害されるのは本人のコミュ力の問題だとしばきあげる発想のこの日本の作品などは、現実が見えていないように思われます。
ぼくのパパは一本足 ふたりの最強ルール (わたしたちの本棚)

ぼくのパパは一本足 ふたりの最強ルール (わたしたちの本棚)

タイトルから予想されるような、障害を持つ家族との関わりを通して障害者理解をはかるという主旨の作品では、まったくありません。これは、物語を作ることをめぐる物語です。パラサイクリングのチャンピオンを父に持つトーマスは、作家とイラストレーターとマジシャンという三賢人の手助けを得て、父の物語を書こうします。ところがトーマスは、タイムパラドックスの説明も聞かず白黒写真に飛びこんで過去の世界に旅立ってしまいます。三賢人は衝動的な行動を繰り返すトーマスを矯正しようと〈ルール王国〉に送り込みますが、そこでトーマスは〈レイガイ姫〉というのと仲良くなってしまい思ったような成果をあげられません。話はフリーダムに進んでいきます。私はこの作品に物語としてのおもしろさを見出すことができませんでしたが、試みとしては興味深いと思います。
アカネヒメ物語 (徳間文庫)

アカネヒメ物語 (徳間文庫)

00年代前半ごろに刊行されていた「アカネヒメ物語」シリーズが、全1冊で文庫化。人と神・不思議現象とテクノロジーが共存し、善意も破滅もある安定の村山ワールド。書き下ろしも収録されているお得な本です。