『花見べんとう』(二宮由紀子・あおきひろえ)

花見べんとう (わくわくえどうわ)

花見べんとう (わくわくえどうわ)

絵童話で落語を語るという試みの、ひとつの完成形といえる作品です。
白米の詰められた弁当箱に次々と新しいおかずが投入されることの繰り返しが、落語調の語りで展開されます。圧倒的多数派である白米たちが新人たちを勝手な理屈で品定めするギャグで、作品は成り立っています。
油べたべたのからあげがやってきたら迷惑がったり、「アイ・アム・サムライボール」と名乗るのが来たら「外国の お人かいな」「どうしょ わしら、国産米や、えいご ようしゃべらん」と困惑した挙げ句、結局ただのタコやきだということがわかり脱力したりと、大騒ぎ。
白米の中には良識派もいて、自分たちの都合で他のおかずを嫌ってはいけない、「わたしら、みな、同じ この星の なかまやないか」と言い出すものも現れます。となると、多様性称揚のお説教のようになってしまいますが、「わ、わ、こら、また ええこという ごはんつぶが 出てきなはったな」というつっこみでいなされます。こういう斜め上からの冷めた視線も、落語っぽい感じがします。
こんな具合に愉快な仲間が増えてきますが、終盤にさしかかると弁当箱が完成した後の彼らの運命を知っている読者は不安になってきます。そこに、そういううまいオチをつけますか。
絵童話としては一般的な工夫ですが、ひとつのセリフは必ず見開きのなかで完結するようになっています。ページをめくるたびに新しいキャラが出てきたり新しい発見があったりと、読者を飽きさせません。ページをめくると楽しいことが起こるんだという、本に対する根本的な信頼感を醸成できる作品になっています。