その他今月読んだ児童書

ここにいるこの体の自分をわかるとしたら自分しかいないのに、その自分のことは自分じゃぜんぜんわからないんだから。わからないまま、だらだら生きてるんだよ。考えてみたら怖いじゃん。(p99)

離別していた母親の死により、母親に引き取られていた弟と再び同居することになった女子の物語。父親にも遠慮してしまう弟のよるべなさ、特に希望していなかった私立中学にあえて入ることによりここは自分の居場所ではないと表明する生存戦略、夜の月の光を優しいと感じる感性。この世界に身の置き所のない子どもを描かせたら、やはり岩瀬成子の右に出るものはなかなかいません。

スマイル・ムーンの夜に (teens’ best selections)

スマイル・ムーンの夜に (teens’ best selections)

人は結局ひとりで生きていくしかないのだということを突きつけるのが、宮下恵茉の優しさなのだと思います。
大坂オナラ草紙

大坂オナラ草紙

第58回講談社児童文学新人賞入選作。江戸時代にタイムスリップしオナラをすると現代に戻れるという設定とは裏腹に、非常に生真面目につくられていた作品でした。
痛快! 天才キッズ・ミッチー (カラフルノベル)

痛快! 天才キッズ・ミッチー (カラフルノベル)

それなりに長く続いている古書店の3代目で出版プロデューサーを目指している女子ミッチーが、古書店の常連の文学おじさんの作家デビューを手助けしようと奮闘する話。かしこい子どもがボンクラな大人を手玉にとって活躍する様子を楽しく描く手腕は、ずっと変わらない宗田理の職人技です。ミッチーは読書アドバイザーとして新刊書店に常駐して盛り上げたり、古書店にカフェを併設しようとたくらんだり、従来の本の流通の常識を覆す策を考えたりと、さまざまなアイディアを繰り出します。
宗田理はこれから出版業界がどう激変しようと余裕で逃げ切れるだけの実績を持っている人です。にもかかわらず、出版業界の未来をこのように真剣に考えている姿勢には頭が下がります。