『ヤイレスーホ』(菅野雪虫)

ヤイレスーホ

ヤイレスーホ

物語の受容の仕方は自由です。たとえば『アナと雪の女王』をみて「あんな最強の氷魔法手に入れたら、自分なら氷の城つくる前に気にくわないやつ全員ぶっ殺すのに」とか、公式が推奨しないであろう感想を抱いた観客も少なからずいるはずです。
アイヌ神話をモチーフにした『チボロ』の姉妹編。『チポロ』は、ストーリーだけ取り出せば悪い魔物ヤイレスーホに監禁された少女イレシュを少年チボロが救いに行くという、王道の英雄物語でした。
ヤイレスーホはイレシュを他の魔物から守るために、触ったものを凍らせる魔法を与えました。イレシュはそれを呪いだと思っていましたが、その物語を聞いたランペシカという少女は別の感想を持ちます。自分の復讐のためにその力は利用できるのではないかと。ランペシカは自分の持っている他人の願い事を叶えることのできるマジックアイテムと引き替えにヤイレスーホの力をもらおうと、ヤイレスーホを捜索します。これが、『ヤイレスーホ』の物語の発端となります。
英雄の物語では語りきれないものがあります。少女を救いに旅立てなかった少年の感情。少女を監禁していた魔物が少女に抱いていたなんとも言い難い感情。ヤイレスーホの呪いをむしろ恩寵だと受け取る人間の感情。
『チポロ』という英雄譚からは取りこぼされてしまった感情が丁寧にすくい取られているので、『ヤイレスーホ』はあたたかみのある救済の物語となっています。そして、異種間の恋愛ものとしても、美しい物語になっています。ヤイレスーホが最後に選んだ願いは泣かせます。