『ウシクルナ!』(陣崎草子)

ウシクルナ! (飛ぶ教室の本)

ウシクルナ! (飛ぶ教室の本)

小学4年生の四葉四郎は、不幸にあえいでいました。家は貧しく母親は家出し、クリスマスにサンタクロースもやってこないという状況。ところが、クリスマスも過ぎ正月がやってこようというころにサンタクローウシが現れ、名状しがたい海産物をプレゼントしてくれました。関西弁を操るそのウシは、そのまま家に居座ってしまいます。さらに、幼なじみの金持ちお嬢様栃乙女レラミがバズーカで玄関のドアを破壊し、かわりに重たくて開けるのがたいへんな超合金のドアを取り付けてくれるという迷惑行為をやらかしてくれます。なにをいっているのかわからないと思いますが、実際そういう話なのだから仕方ありません。
ウザいくらいに存在感のあるウシがごろごろのたのたどたばたしているだけでもおもしろいのに、そのうえ細部のギャグセンスも光っています。四郎がクリスマスプレゼントにほしがっていたのは「電子深海魚戦隊・ダイオウイカライダー」の変身ベルトで、ベルトが昆布型で中央にはイカの目玉がありその周囲に10本のイカ足が配置されているという代物。ウシはそのおもちゃではなく、ナマモノのイカと昆布を使った本物をプレゼントしてくれます。その戦隊ヒーロー、めっちゃみてみたいし、ウシのくれたモノホンのベルトも拝んでみたいですよね。
四郎がバンドを結成して成り上がるというメインのストーリーラインだけ取り出せば、それほど斬新な作品であるとはいえません。しかしそれは、マネージャー役のお嬢様に「世間を感動させるストーリー」「どん底からはいあがろうとする人を、人は応援したくなるものなの」と、一旦茶化されます。そして、ウシの突進力とお嬢様のマネーパワーと独特のセンスで読者は物語の荒波に飲み込まれ、あれよあれよといううちにベタな物語を受け入れてしまいます。物語自体はありふれたものでも、その料理法は斬新です。
本の作りも凝っています。カバーイラストの吸引力は、今年刊行された児童文学のなかでもトップレベルでしょう。帯には著者の母親(特に有名人というわけではないはず、多分)がコメントを寄せており、しかもそのコメントが「愛と勇気と笑いと努力の物語やな! 知らんけど」という人を食ったもので、遊び心にあふれています。表紙は乳牛のまだら模様になっていて、これまたかわいらしいです。読者をもてなし楽しませようとする姿勢が細部にまで徹底しているのが好ましいです。