『本当にあった? 恐怖のお話・魔』(たからしげる/編)

本当にあった? 恐怖のお話・魔

本当にあった? 恐怖のお話・魔

大事なことを先に書いておきます。小中の学校図書館はこの本を入れておいてください。これは、必要としている子どもに絶対に届けなければならないタイプの本です。
というか、こういうホラー短編集という体裁の本に本当に怖い現実の話を書くのはひどいよね。そんな非道な所業をした作家が2名ほどいるのです。
せいのあつこの「がたがた」は、(大人はいいなあ。学校へ行かなくていいんだもの)という独白から始まる、そんな話です。グループ内の圧力のために幼なじみに冷たい態度をとらざるを得なくなった女子の物語。その女子が本当は幼なじみのことが好きなのかそうでないのか、そこは問題ではありません。理不尽な支配力のために自由な選択肢が奪われるという状況が怖いのです。
梨屋アリエ「あの手が握りつぶしたもの」が描く恐怖は、性的な被害がなかったことにされるという恐怖です。児童に対する性暴力への世間の認識の甘さ*1のため、子どもがひとりで苦しみを抱えなければならないという地獄。梨屋アリエは、朴訥な筆致でその苦しみを描きます。それは、そうした表現でしか描き得ないものです。
性暴力に苦しめられている子どもに、世の中には「わかってくれる大人」がいるということだけでも伝えられれば、救いの糸口になります。届くべきところに届きますように。

*1:作中では、女子だけではなく男子に対する性暴力にも触れられています。このように、世間にまだ認知されていない弱者に目を向ける梨屋アリエの先進性は、もっと評価されるべきです。