『お江戸怪談時間旅行』(楠木誠一郎)

お江戸怪談時間旅行

お江戸怪談時間旅行

小学6年生の陽奈と翔は、寛政12年の石川島・人足寄場にタイムスリップしてしまいます。そこでは、ふたりより先にタイムスリップした現代の女性研究者が持ち込んだ新発明の筋肉増強剤のせいでゾンビのようになった人々が暴れ回っており、大パニックになっていました。はたして時間旅行者達は、この危機を乗り越えられるのか。
なんでタイムスリップしたのか、なんで筋肉増強剤でゾンビ化するのか、そんな細かいことは気にする必要はありません。お江戸にゾンビを発生させたらおもしろかろうと著者が思ってしまったから書いた、それだけでよいのです。
いい意味でB級な作品で、ゾンビもののお約束を忠実に守っていて読者の期待を裏切ることはありません。第1部のラストなんか、映画だったらエンドクレジット後にこういう場面が出てくるだろうなと予想されるとおりで、待ってましたと歓呼の声を上げたくなります。
ただし、物語の展開はB級なのですが、著者が楠木誠一郎なので時代考証は超一流です。人足寄場という出発点の舞台設定も秀逸ですし、舞台が江戸に拡大すると町木戸をバリケードとして利用したり、最終的な籠城ポイントをあそこにしたりと、ステージの設定がそれぞれ説得力が高く、江戸は最初から対ゾンビ防衛都市として設計されていたかのように錯覚してしまいます。
専門知識を持った人が大人げなく本気で遊んでいる様子を眺めさせてもらうのは楽しいですね。