『給食アンサンブル』(如月かずさ)

給食アンサンブル (飛ぶ教室の本)

給食アンサンブル (飛ぶ教室の本)

やはり、人物の顔が大きく描かれたカバーイラストはインパクトがあって目を引きますね。しかも、イラストは五十嵐大介。スプーンで口を隠していることは沈黙を表すと同時に、スプーンはマイクにも見えるので拡声するという正反対の意味もこめられているのだそうです*1
連作短編集。家が没落してお嬢さま学校から転校してきたために庶民の学校の給食になじめない女子の話だったり、友だちの姉に片思いしていてその子の好きだった給食の黒糖パンを持ち帰ってあげる男子の話だったり、給食をモチーフにしたさまざまなエピソードが語られます。
児童文学は基本的に成長を志向するものです。ただし、どんな文化にも教条主義には必ずカウンターが生まれますから、反成長を標榜する児童文学も脈々と生まれています。反成長派の最近の旗手の一人が如月かずさで、特に強制異性愛に異議申し立てをするというかたちで独自の立ち位置を確立しています。その方面での代表的な作品は、『サナギの見る夢』『カエルの歌姫』『シンデレラウミウシの彼女』あたりでしょうか。
ただしこの作品は、普通に成長を志向するエピソードもあり、中学生になっても童話を読んでたっていいじゃんというような変化しないことを肯定するエピソードもあるので、非常にバランスがよくみえます。
連作の各エピソードの繋ぎが巧みで、かっちりした構成でよい読後感を与えてくれる、著者の技術力の高さを感じさせる作品です。如月かずさのYA作品は先鋭的なものが目立ちますが、これは比較的万人に勧めやすいものになっています。

*1:飛ぶ教室」2018年秋号の如月かずさ×五十嵐大介対談より