『失恋妖怪ユーレミはフラれ女子の味方です! 』(令丈ヒロ子)

KADOKAWAの児童向けホラーアンソロジー「笑い猫の5分間怪談」シリーズに掲載された連作を1冊にまとめたものです。okamaのイラストがそのまま収録されているのも嬉しいです。毎回のように変わるユーレミのファッションを忠実にイラスト化してるので、かなり手間がかかっていそうです。
ユーレミは、好きな人から「半径10メートル以内に近よるな」と言われて川に落ちて死んだ子が妖怪化したもの。自分のように失恋で苦しむ子を救うためハートを食べてあげる「いい妖怪」です。ユーレミはカウンセリング能力が高くてターゲットの失恋女子といい感じになるのですが、食欲に支配されると外見がヘビ化して怖くなるので引かれてしまったりして、結局なんやかんやあって捕食に失敗するというパターンのコメディになっています。おなかをすかせているのに失恋女子の幸福を願ってとぼとぼと帰って行くユーレミの姿が不憫かわいいです。失敗を元に名刺の文面をこまめにアップデートしたりする努力家なのに、ユーレミは全然報われません。
令丈ヒロ子作品ですから当然娯楽読み物として一級品なのですが、作品の背景は陰惨です。ユーレミの死因がひどいですし、ユーレミが過去と向き合う第6話は読者もユーレミとともに取り残されて鬱になるしかありません。恋愛とは人が人を選別することでしかないという残酷さを、作品は克明に描いてしまっているのです。
そしてこの作品の美点は、恋愛ではない別のさまざまな愛のかたちのあり方を提示しているところにあります。たとえば第4話の生物学男子(女子に限定するとなかなか腹を満たせないので、途中から守備範囲を広げている)は、ユーレミがヘビ化してふつうだったら怖がるところを、逆にその生態に興味を持って「理想のキメラ女子」として愛でまくります。学術的興味というのもひとつの愛のかたちとして肯定しているのです。
そもそもユーレミは、怨霊になってもおかしくない死に方をしているのに人を救うために妖怪化した、愛の人です。ただし、空腹は苦しいので腹を満たしたいのか人を救いたいのか目的と手段がごちゃごちゃになっているのが厄介です。やがてユーレミを慕う人間も現れてきますが、ユーレミが食事に困らないように自分が失恋しようと本末転倒な決意をします。なにがなにやら混乱してますが、これも愛のかたちではあります。そして最終的にある兄妹が歪んだ愛でユーレミを共有することになるのですが、これは難しくてどう解釈すればいいのかわかりません。愛は複雑と、雑にまとめておきます。