その他今月読んだ児童書

スケッチブック (ティーンズ文学館)

スケッチブック (ティーンズ文学館)

第26回小川未明文学賞大賞受賞作品。小学5年生の女子が、亡き母に導かれるように遠野の供養絵に出会い、供養絵の作成に没頭するようになるという話。小学生が死と芸術に魅入られてしまうという不健全なテーマで、その宿命の輝かしさが暗くも清らかに描かれています。それだけに、主人公がコンクールの不正疑惑で絵を描くことが嫌になっていたという俗世のエピソードは不要であったのではないかと思います。海外で働く父が人気取りのためについた適当な嘘のせいでサムライガールにされてしまったかわいそうな女子の話の第2弾。異文化コミュニケーションに悩む父と日本の娘の人間関係の悩みをパラレルにしてその構造をわかりやすくしてします。難しい問題を軽やかに語っているところに好感が持てます。「とりこまれる」というのはシリーズを象徴するようなフレーズで、今回は読者自身が経験した怪異が書いてある「あなたの本」をめぐる物語になっています。このシリーズとしては珍しく割とはっきりした解決編がありますが、緑川聖司は元々ミステリの人なので、きれいに収束する結末もうまいということを見せつけてくれます。
昨日のぼくのパーツ

昨日のぼくのパーツ

アイドルはトイレに行かないというバカ話から、学校のトイレに行かない競争という小学校地獄イベントが始まり、それをきっかけに子どもたちが排泄の悩みについて考えるというストーリー。教材としては、こういう作品の需要はありそうです。ただ、さまざまな事例を出すことに汲々として、著者の持ち味である毒やユーモアがやや薄かったように感じられました。日下三蔵編による、テーマ別SF短編アンソロジーシリーズが汐文社から刊行開始。第1弾「時間篇」の収録作は小松左京「御先祖様万歳」 ・筒井康隆「時越半四郎」・平井和正「人の心はタイムマシン」・広瀬正 「タイムマシンはつきるとも」・梶尾真治「美亜に贈る真珠」・星新一「時の渦」。 第2弾「ロボット篇」の収録作は星新一「花とひみつ」・筒井康隆「お紺昇天」・矢野徹「幽霊ロボット」・平井和正「ロボットは泣かない」・小松左京「ヴォミーサ」。こんなんおもしろいに決まっているので、なにもいうことはありません。この「SFショートストーリー傑作セレクション」や「文豪ノ怪談ジュニア・セレクション」、90年代の奇怪児童文学『ジグソーステーション』の復刊と、このごろの汐文社は子どもを悪い沼にはめる悪い出版社ぶりをいかんなく発揮してますね。もっとやれ。