『火狩りの王 一 春ノ火』(日向理恵子)

火狩りの王〈一〉 春ノ火

火狩りの王〈一〉 春ノ火

ポスト・アポカリプスSF児童文学のシリーズがスタート。最終戦争後の世界は黒い森に覆われ、人々は結界に守られた小さな村でひっそりと暮らしていました。人類は戦争後、火に近づくと体の内部が発火して死んでしまう体質に改造されて自由に火を使うことができなくなっており、文明レベルは落ちています。だた唯一、炎魔と呼ばれる「かつて地上に棲息した哺乳類」に似たなにかから採取できる炎は、人体を発火させずに使用することができました。三日月型をした金色の鎌を操り炎魔を狩る人々は、火狩りと呼ばれていました。
なぜ人は発火するようになったのか、炎魔とはなんなのか、人類を統治している神族と呼ばれる者たち、それに敵対する蜘蛛と呼ばれる者たちは何者なのか、謎だらけの世界設定が読者を引きつけて放しません。特に興味を引くのは、「千年彗星」という人工の星です。それは神族と人が造った機械人形であり、「天の子ども」や「揺るる火」とも呼ばれていて、人類を火の呪いから解き放つ力を持つと伝えられています。空に浮かぶ子どもというイメージは、『空の怪物アグイー』や『AIR』のようでロマンチックです。
主人公の灯子は、紙漉きの村に住む11歳の少女。炎魔に襲われていたところをひとりの火狩りに救われます。火狩りは炎魔との戦いで死亡、灯子は形見の鎌と守り石と狩り犬を返すため、首都の工場から来る回収車に乗って旅立ちます。
回収車にはよその村に嫁ぐために移動している女たちが乗り合わせていました。『マッドマックス4』『けものフレンズ』『ケムリクサ』など、近年のヒット作には女子集団が乗り物で旅をするロードムービーが目立っているので、時流に乗っている感じがします。魔物なのか神なのか、常に獰猛な異形のものたち危険にさらされる旅路は、一瞬も気を抜くことができません。シリアスモードのあさのあつこを思わせる硬質な文体が、作品世界の緊迫した空気を過熱させています。
このまま冒険小説として盛り上がっていってSF設定がきれいに回収されたなら、長く語り継がれるシリーズになりそうです。イラストにヒットメーカーの山田章博を起用したりtwitterに公式アカウントをつくって宣伝したりと、出版社もかなり力を入れてプロモーションしているようです。ぜひ成功作になってもらいたいです。