『まえばちゃん』(かわしまえつこ/作 いとうみき/絵)

まえばちゃん (だいすき絵童話)

まえばちゃん (だいすき絵童話)

『まんまるきつね』が2006年、『花火とおはじき』が2008年、『わたしのプリン』が2009年、『星のこども』が2014年、そして待望の新作『まえばちゃん』がようやく2018年に出ました。『花火とおはじき』が日本児童文学者協会新人賞を受賞していて実力は証明されており独特のメランコリックな文体が固定ファンを獲得しているのにこんなに待たせるとは、川島えつこは罪深い作家です。
川島作品の特徴は文体の清澄にあります。あまりに透明感がありすぎるため内臓が透けてみえるようなタイプの美しさとグロテスクさを持っています。もうひとつ、出産など表面的には生命賛歌にみえる題材を扱っていても、常に耳元で「メメント・モリ」とささやかされてるかのように読者に思わせる根源的な暗さも大きな魅力です。川島作品で肉体は、やがて朽ちていくもの、もしくは捕食されるものとして扱われています。
低学年向けの絵童話『まえばちゃん』でも、その傾向は変わっていません。『まえばちゃん』は、いままで自分を見守ってくれたまえばちゃんとお別れして新たに生え替わったスーパーまえばちゃんと出会うという話です。この流れだけを取り出せば前向きな成長物語にみえますが、実態は違います。子どもたちがダンゴムシが脱皮した皮を食べるか食べないかというクイズをしている場面があります。主人公はそこから友だちが美容院で切ってもらった髪を連想します。それは美容師に捨てられたと聞くと、もったいない、ダンゴムシだったら食べちゃうかもしれないと思います。老廃物としての皮、髪、それを捕食するイメージ。まったくいつもどおりの川島えつこです。
川島えつこ健在。次の作品はぜひ早急に読ませてもらいたいです。