『君だけのシネマ』(高田由紀子)

君だけのシネマ (わたしたちの本棚)

君だけのシネマ (わたしたちの本棚)

史織は、中学受験に固執する支配的な母親にずっと悩まされていました。中学受験に失敗し友人関係も破壊されてもなお母親の支配はおさまりません。父親の転勤を機に母親から逃げるように佐渡の中学校に転校した史織は、祖母のシネマカフェ作りを手伝うことになります。
2018年の児童文学界にもたくさんの毒親が登場しましたが、個人的にもっとも印象に残ったのはこの母親です。勉強のみを強いる母親の思いは100%善意で、娘の目が死んでいてもそれはまったく問題にはなりません。「心配」という一言で自分の行為の正当性が保証されると思いこんでいます。完全に相互理解が不可能な人間が自分の人生をコントロールできる立場にあるということは、子どもにとってはこの上ない恐怖です。
親を完全にモンスターとして造形する児童文学が当たり前になりつつある状況は、この世界からひとつ不自由さが消えていっているということであり、喜ばしい変化であるといえます。
親というもっとも身近な他者を拒絶する物語は、人は孤独であるということを強烈に意識させます。しかしこの作品は、孤独をネガティブなものとして捉えてはいません。映画という題材をうまく使って人はひとりになれるということを言祝いだことが、この作品の大きな成果です。

映画館って、たくさんの人と同じ時間を過ごす場所だと思っていた。
でも……そうじゃなかった。隣に人がいても、自分一人になれる場所なんだ。
(p261)