『がんばれ給食委員長』(中松まるは)

くじ引きでいやいや給食委員長を引き受けさせられてしまった小学5年生の本木ゆうなは、栄養士の先生がトイレで泣いているところを偶然目撃してしまいます。はじめは給食の調理員のおばさんにいじめられているのではないかと疑っていましたが、栄養士に話を聞いてみるともっと深刻な悩みが明らかになります。ゆうなは栄養士の悩みを解決するため他の給食委員を巻きこんで給食の残菜を減らす活動を始めようとしますが、なかなかうまくいきません。
栄養士の悩みは、学校現場に能力給が導入され教職員がランク付けされることで職場環境が悪化しているというものでした。栄養士の場合残菜の量が成果として評価され、成果を出せなければひとりで複数の学校を掛け持ちさせられるという懲罰人事を受けたり、最悪の場合給食の民間委託の口実にされたりすることを心配していました。中松まるは大阪在住の作家です。教育破壊の最前線のひとつである大阪からの報告は、重く受け止めなければなりません。
とはいえ、政治の貧困は大人の責任で、子どもにその尻ぬぐいをさせようというのは筋違いです。作品はそのラインを守り、あくまで子どもにできる範囲での問題解決のための活動を楽しく描いています。スマートフォンの扱いがうまい子が「小学生のすきな給食メニューランキング」を検索したり、料理人の息子が自分がメニューとレシピを考えると名乗りを上げたりして、無能な大人を指導してやろうと盛り上がり、ハンバーグカレーとかラーメン・チャーハン・唐揚げのセットとか、人気の出そうなメニューを提案していきます。もちろん栄養バランスに配慮しなければならない給食でそんなものを出せるはずがありません。現実の壁を知ってから、さらにわいわいと試行錯誤が続きます。
社会問題を鋭く見据え、現実的な方法で変革の道筋を探っている作品です。つまり中松まるはは、少年文学宣言・古田足日直系の社会派児童文学の書き手であるといえます。それでいながら、娯楽性の面で現代的にアップデートされているのが、中松作品の長所です。特にテクノロジーの進歩を肯定的に捉え、子どもたちとテクノロジーの楽しいつきあい方を描いているのは、他の作家ではなかなか見られない特色になっています。それが顕著なのは、『すすめ!ロボットボーイ』『ロボット魔法部はじめます』といったロボット制作をテーマとした作品群です。『がんばれ給食委員長』では、情報機器の使い方にひとつの焦点が当てられています。インターネットで食の情報を検索すると、牛乳有害論のような悪質なトンデモに遭遇する危険性もあります。しかし、適切な調べ方をすれば有益な情報を得られると、肯定的な面を強調しています。
中松まるはは、伝統的な手法を堅実に守りつつ現代的なエンターテインメントを実現している作家です。そのようにみれば、もっと評価されてもいい作家だと思うのですが。