『ねこの小児科医ローベルト』(木地雅映子/作 五十嵐大介/絵)

ねこの小児科医ローベルト

ねこの小児科医ローベルト

木地雅映子の新刊は、『夢界拾遺物語』以来約4年ぶり。五十嵐大介と組んだこの作品は、読者のメンタルを確実にえぐってくるいままでの木地作品とはだいぶ印象の異なるものになっていました。
ユキのおとうとのユウくんが夜中に突然嘔吐し、両親が救急車を呼ぶかどうか悩んでおろおろしていたところ、電話帳に奇跡のように「夜間専門小児科医 松田ローベルト(個人)」という番号が光りました。電話をかけてみると、ふつうサイズの四分の一くらいの大きさのへんてこりんなバイクに乗ったねこのおいしゃさんが往診に来てくれました。
ねこのおいしゃさんは優しくて頼もしい物腰ですが、患者とその家族の不安を解消するためにはなにより理屈での説得を大事にしています。そのあたりは、情より理で世界にアプローチする木地雅映子らしいです。摂取した水分が吐く量を上回っていれば十分水分を補給できるのだから、嘔吐を繰り返したとしても水分をとらせることを怖がってはいけないと、当たり前だけど慌てているときには理解しにくいことを冷静に説いてくれます。ただし、物資や衛生環境に恵まれている日本ではそれぼど危険性のないウィルスであっても、そうでない国では多くの人の命を奪っているということにも踏み込みます。
夜中に子どもが病気になったらどうしていいかわからないという不安に寄り添う、どちらかといえば大人向けのファンタジーであるともいえます。ただし視点人物は子どもであり、弟の病気が治ったあとは子どもたちとねこの関係性を中心にしたメルヘンになります。
なぜかその後ユキ以外は松田先生に関する記憶を失い、ローベルトは昔からうちで飼ってたねこであると家族の記憶が改変されます。この後の展開が短いながら濃密。愛おしく忘れがたい奇跡が描かれた良質な童話になっています。