『ぼくにだけ見えるジェシカ』(アンドリュー・ノリス)

ぼくにだけ見えるジェシカ (児童書)

ぼくにだけ見えるジェシカ (児童書)

男子なのにファッションに興味を持っているため学校で疎外されている少年フランシスは、冬のある日校庭のベンチで寒そうな格好をしている女子を見かけます。コートも着ていない変な女子に好奇心を刺激され紅茶をすすめてみたところ、「わたしにいってるの?」と驚かれてしまいます。その女子ジェシカは幽霊で、普通の人には見えないはずでした。奇妙な友人を得たフランシスの生活は、徐々に変化していきます。
孤立している息子を不憫に思った母親は、近所に引っ越してくる転校生と仲良くしろといらぬお節介を焼きます。転校生のアンディはチビでマッチョな女子で暴力事件を起こして前の学校を退学になっており、フランシスと友人になれそうなタイプではありませんでした。ところがアンディにもジェシカが見えて、3人は親しくなります。アンディを手なずけたことからフランシスには驚異的なカウンセリング能力があるものと誤解され、また厄介な引きこもり少年の世話を押しつけられ、だんだん仲間が増えていきます。
アンディが学校のクズどもに鉄拳制裁を食らわせたので、フランシスの学校生活は平和になります。アンディの暴力とジェシカのステルス能力や瞬間移動能力でさまざまな問題はとんとん拍子に片付いていきます。ジェシカとジェシカが見える者たちに共通する「〈穴〉に落ちた」というシリアスな問題はあるものの、物語は軽く読めるユーモア児童文学として進行していきます。中盤までは。
終盤になると、物語の背後が露わになります。暴力で問題を解決できるギャグキャラが守る平和の裏側で、なにが起こっているのか。そこには、できれば目を背けておきたいような事態が起こっているのです。ここに踏みこんでしまい、作品世界の空気を二層構造にしたことで、シリアスな児童文学としての説得力が上がっています。