『あやかし図書委員会』(羊崎ミサキ)

あやかし図書委員会 (PHPジュニアノベル)

あやかし図書委員会 (PHPジュニアノベル)

新興の児童文庫レーベルPHPジュニアノベルのオリジナル作品。読書感想文が苦手な小5女子羊崎ミサキは、書き方を司書の先生に教われと命じられて学校図書館に行きます。ところがその図書館は座敷童などのあやかしが運営していて、ミサキもあやかし図書委員に任命されてしまうことになります。
あやかし図書委員の役割は物語を食べる紙魚を退治すること。これが空中に浮かぶかなり気味の悪い魚でした。学校図書館には予算がないから霊能力者を雇って対処することができず、ミサキがマジカルはたきでぶったたいて倒すという地道な作業が続きます。世知辛い。ちなみにこの学校図書館は6年担任持ちの司書教諭が仕切っていて、学校司書は配置されていないようです。担任持ちながらまともに学校図書館の仕事をするのは無理なので、アブラアゲで狐を釣って働かせても責めることはできません。世知辛い。
この作品はブックガイドとしての側面も持っています。子どもに本を薦めようとする大人でもっとも信用してはならないのは、古い本しか薦めないタイプです。知識が更新できておらず、自分の思い入れでしか語ることができないので、まったく参考になりません。その点この作品は、角川つばさ文庫の「こわいもの係」シリーズや集英社みらい文庫の「牛乳カンパイ係、田中くん」シリーズ、ノンフィクションの『ギョギョギョ! おしえて! さかなクン』など、新しい作品に目配りがあるので信頼できます。他にも、司書教諭が「強制された読書なんて猫のうんこ以下よ」と言ったり、低学年の子に『みんなうんち』を渡すときの狐の言葉が「みんなうんちはめっちゃうんちだぜ」だったり、ズッコケ三人組の神回論争が起こって『ズッコケ文化祭事件』が認定されたりと、信頼できる要素を書き出していったらきりがありません。
作品論もしっかりしていて、「こわいもの係」シリーズを「この本のいいところは、やむにやまれずこの世界にすがたを見せる、あやかしのリアルな気持ちが描かれてるってとこ」「さみしいことや悲しいことがたくさんあるって、ちゃんと書いてある本が好き」と、独自の切り口で評しています。ただしここで注意すべきなのは、この論考をしているのは座敷童で、「こわいもの係」作中の座敷わらしの花ちゃんに共感して読んでいるということです。つまり、虚構の読み手が周縁的な読みを展開しているわけです。ここが、終盤の山場にうまく接続されていきます。