『長浜高校水族館部!』(令丈ヒロ子)

長浜高校水族館部!

長浜高校水族館部!

高校生が水族館を運営している愛媛県立長浜高校の水族館部をモデルにした理系青春小説です。のちに部長になる井波あきらの視点で、入部から2年目12月のクリスマスイベントまでの約2年間の出来事が語られます。
理系の学問の魅力をわかりやすく描いているところが、この作品の一番の美点です。たとえば、部員がハタゴイソギンチャクの刺胞射出について語り合う場面。カクレクマノミだけが毒針に刺されない理由を論理的に推論して検証していくさまを実に楽しそうに描いています。想定読者層には聞き慣れないような専門用語は使われていますが、論理の筋道が簡潔に平易に語られているので、おおざっぱな理解は得られそうです。こういう記述の的確なところ、令丈ヒロ子は非常に理知的な作家であると感じさせてくれます。
楽しさだけでなく、厳しい面も描かれています。研究がうまく進まない理由が部員の能力不足でも努力不足でもなく、実験にかかる費用が高いからであるというのは、いかんともしがたいです。活動がうまくいかないと人間関係もこじれてきて、さまざまな問題が起こります。
そこで活躍するのが、主人公の井波あきらです。気配り上手なお父さん系男子、このタイプの男子の魅力を輝かせることができるのも、令丈作品ならではの特色です。
約2年間の物語なので、欲をいえば青い鳥文庫で5,6巻分くらいの分量はほしいところです。が、この作品はプロローグで2年目12月時点のあきらがいままでの出来事を振り返る形式にしているのが巧妙です。振り返ってみれば高校生活のあれやこれやもあっという間のことのように感じられますから、この圧縮度がかえって感傷と感動を高める結果になっています。