『四つ子ぐらし 3 学校生活はウワサだらけ!』(ひのひまり)

四つ子ぐらし(3) 学校生活はウワサだらけ! (角川つばさ文庫)

四つ子ぐらし(3) 学校生活はウワサだらけ! (角川つばさ文庫)

「感情の種類が変わっただけよ。大きさは変わらないの」

3巻のハイライトは、長女さんのこのセリフに尽きるでしょう。これだけ重い発言ができる中学1年生、いままでどんな人生経験を積んできたのだろうかと、かえって心配になってきます。その大きさが保持されているのであれば、置換可能な感情はまた元に戻ることもありえます。まだまだ先はわかりません。
父親がふたりいることをさらっと描いた「聖クロス女学院」シリーズ、学校を卒業して何十年たってもエス関係を続けるロールモデルを提示した「こわいもの係」シリーズ。まだ歴史の浅いつばさ文庫ですが、多様な生き方を描くという点ではすでに実績を残しています。こうしたマイノリティの関係性を当たり前のことのようにさりげなく描けるのは、メインストリームの児童文学ではないエンタメ児童文庫ならではの強みなのかもしれません。姉妹のカミングアウトに対して、ちょっととまどいながらもすぐに受け入れるさまを自然なこととしてぬけぬけと語ったこの作品も、その系列に加えられます。
ということで、「四つ子ぐらし」第3巻。珍しい四つ子は学校で大人気になりますが、同時にクローンだとか超能力者だとか根も葉もない噂も飛び交うようになります。さらに、なぜか四つ子に敵対的な態度をとる新聞部が、四つ子は子どもだけで暮らしているという絶対隠さなければならない秘密を知っているようなそぶりをみせつつ接近してきて、一騒動起こります。
大人や社会が出てこない分、比較的(あくまで比較的ですが)重苦しさが薄れていて、箸休め的な茶番回になっています。2巻で本性を現した長女一花は腹の据わったところをみせ、嘘はつかないけど本当のことすべては言わないテクニックで新聞部と対決します。シリーズにはライトミステリとしての側面もありますが、四月の推理力に一花の度胸が加わって、四つ子探偵チームはかなり頼もしくなってきました。この巻でキャラクターがだいぶ増え、レギュラーキャラの湊くんの人物像も掘り下げられたので、さらに物語がにぎやかになりそうです。
とはいえ、やはり3巻にも暗さはあります。特に四月のネガティブ思考。ただネガティブ思考にはまるだけではなく、そこからこんなことを考えるのは自分だけではないかと考え孤独感にさいなまれるという流れ。メンタルの弱い人間の陥りがちな負の思考のスパイラルの描き方に無駄にリアリティがあります。このシリーズ、どこまで闇を深めていくのでしょうか。