『あららのはたけ』(村中李衣)

あららのはたけ

あららのはたけ

「雑草はふまれるとな、いっぺんは起きあがるけど、もういっぺんふまれたらしばらくはじいっと様子見をして、ここはもうだめじゃと思うたら、それからじわあっと根をのばして、べつの場所に生えかわるんじゃ」
(p16)

横浜から山口に引っ越して、畑いじりをしたりと慣れない田舎ライフをことになった小学4年生のえりと横浜にいる幼なじみ3人組のひとり親友のエミ。ふたりが交わす手紙の形式で描かれた書簡体小説です。
えりの心残りは、幼なじみ3人組のもうひとりのけんちゃんのこと。文通が進むにつれて、けんちゃんになにかがあって今はひきこもりのようになっているという情報が読者に開示されていきます。
冒頭に引用したような生き物雑学がたくさんあって楽しいです。主人公のふたりは知的好奇心が強く、疑問に思ったことは自分で調べて生き物の生態を論理的に理解しようとする姿勢を持っているところが好感度高いです。
もうひとつおもしろいのは、人と人を繋ぐ回路の描き方です。離れたふたりをつなぐ文通という手段はやや古風です。そして、閉ざされているけんちゃんの部屋の扉には、猫用*1の小さな扉がついていました。そこに足をつっこむところからはじまり、いろいろなものをつっこんで、関わりを求めていきます。こうした小道具の使い方がうまく、さすが手練れの技という感じがします。

*1:この猫の名前も「与作」と古風でおもしろい。