『火狩りの王 二 影ノ火』(日向理恵子)

火狩りの王〈二〉 影ノ火

火狩りの王〈二〉 影ノ火

火に近づくと人体が発火するようになった未来を舞台にしたポスト・アポカリプス児童文学の第二弾。首都入りした灯子はもうひとりの主人公の煌四と出会い、人と神と異形のものたちの運命が交錯する物語がさらに加速していきます。
煌四の方はすっかり不幸が似合うキャラになってきました。病身の妹を人質に取られて兵器開発に協力させられているというかわいそうな境遇の煌四。兵器開発ではめざましい成果をあげるものの、妹はすでにあんなことになってしまい、不幸に磨きがかかります。
灯子は偶然出会った火狩りの明楽を師にするかたちで戦いの道に入っていきます、しかし灯子はきちんとした戦闘訓練を受けているわけではありません。武器の重さにひるんでしまうといったあたりにリアリティがあります。しかしそんななかで明楽への重いが崇拝に近い状態になってきているのが危うい感じです。灯子の仲間はどんどん増えますが、それが改造人間ばかりというのがまた、この世界のひどさをいい具合に象徴しています。
2巻ではいよいよ神が子どもたちの前に姿を現します。少年の姿をしたひばりという神は、人類を超越した力を持っているため愉快犯のような人を食った態度をとります。しかし供犠のようにされている姉神には強い思い入れがあるらしく、その話題になると感情を露わにします。
この少年神は、煌四や灯子をこのように評しています。

「お前とあの村娘はおもしろいな。お前たちは、ここがいかなる世界かを知ろうとしている。どうにかたすかろうとあがくのでもない、破滅を望むのでもない。この世界がいかにあるのか、ただそれだけを知ろうと、強く思っている。」(p237)

日本の児童文学はディストピアものの傑作をいくつも生み出しています。それは現実のうつしえであり、その先には少年文学宣言的な変革の意志が想定されていたはずです。そこをあえて外し、知るということへの欲望のみに注目したというのは独特な視点にみえます。もちろんこれは作中の一登場人物の発言に過ぎませんし、実際の灯子の行動からは火狩りの王を誕生させることによって現状を変えようという意志は感じられます。この発言の真意はどこにあるのか、気になります。