『お絵かき禁止の国』(長谷川まりる)

お絵かき禁止の国

お絵かき禁止の国

第59回講談社児童文学新人賞佳作受賞作。まんがを描くのが好きな中学3年のオタク女子ハルが好きな人と両思いになったところから、物語はスタートします。なのにハルの気持ちは晴れません。なぜなら、好きになった相手は同性だったから、その先のいろいろな問題が気になって仕方がないのです。
日本の児童文学でも、性的マイノリティが主役になる作品がだいぶ増えてきました。ハルはインターネットで同様の悩みを持つ人たちについて調べます。そこでみた事例では、32歳と47歳のカップ*1が養子縁組をしようかと思案していて、他の人から今後同性婚が合法化されると養子縁組をした人とは結婚できなくなるから待ったほうがいいとアドバイスを受けるなど、かなり具体的な話に踏みこんでいます。
もはや、児童文学やYAで性的マイノリティが主役を張るというだけで驚かれたり褒められたりする時代は終わったとみていいでしょう。
では、この作品の特色はどこにあるのかというと、ハルの現実とファンタジーを過剰に切りわけようとする心性がおもしろいのです。ハルは百合やBLはファンタジー度が高く、少女まんがの方にリアリティがあると認識しています。ただし、自分が当事者であるがゆえに百合作品にリアリティを求めてしまうというバイアスがかかっているということも自覚しています。この切りわけの発想は、現実はリアルでなくてはならないという思いこみにつながっていきます。この思いこみがストーリーの流れを支配してしまうかのような展開が興味深いです。

*1:2018年刊行の石川宏千花のYA『わたしが少女型ロボットだったころ』には、45歳と33歳の同性カップルが登場していた。