『こわいオオカミのはなしをしよう』(ウィリアム・マクリーリー)

こわいオオカミのはなしをしよう

こわいオオカミのはなしをしよう

もっとも幸福な物語のあり方とはなにか。それは、受け手から望まれてどこまでも続いていくことです。『こわいオオカミのはなしをしよう』では、そんな幸福が描かれています。
5歳の男の子マイケルは、いつもベッドに入るとパパにお話をせがみます。今回のリクエストはニワトリのはなし。いつもオオカミのはなしばかりさせられているパパいつもとは趣向の異なるはなしを進めようとしますが、案の定マイケルはすぐにはなしにオオカミを登場させようとします。「だめ!」「やだ!」「だめ!」「やだ!」の繰り返しでパパが折れ、結局マイケルの大好きな、肉屋のほうちょうのようなするどいきばを生やしたおそろしいおおかみのはなしが始められます。
物語の設定や展開はふたりの共同作業で作り上げられていきます。ニワトリの名前をレインボーと決めたりするはじめのあたりは順調に進みます。でも、羽根が虹色であるという設定をマイケルが考えると、事実にこだわるパパは実際にはそんな色の羽根を持ったニワトリはいないということにわざわざ言及せずにはいられなくなったりと、思惑が一致しなくなることも出てきます。でもマイケルも慣れたもので、「わかってる、わかってる。じゃあ、つづけて」と軽く流します。パパはパパでこの設定を利用し、レインボーの羽根の色をどんどん数え上げていき、マイケルの眠気を誘おうとします。物語の作成とその背後、ふたつのレベルでの子どもと大人の攻防を楽しめるのがこの作品の魅力です。