- 作者: 菅野雪虫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2019/06/18
- メディア: 単行本
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現実的に考えれば、アトリの結婚は親の離婚再婚や転居などで自分の意思にかかわらず大きな環境の変化を余儀なくされた状況であると捉えられます。それを架空の王族の物語とし、10年ほどの出来事を本1冊に圧縮しているので、ドラマチックで読ませる話になっています。
アトリは育児放棄された子どもで、はじめは知性も美貌も持たない子どもとして登場します。そんなアトリにとって月王ははじめてのまともな保護者となり、「知識」「常識」「愛情」を与えてくれます。アトリはどんどん人間らしさを獲得していきます。子どもが生きるために必要なのはなによりも知性と知恵であるという、菅野雪虫の基本姿勢通りの展開です。
知性を得るということは、もっと知りたい、もっと本を読みたいという欲望を抱くということでもあります。自由のないアトリにとって欲望を抱くことは苦しみにもなってしまいます。それでも最後には自分で自分のいるべき場所を選び取ります。
アトリの腹違いの妹のカティンも魅力的です。母親をみてああはなるまいと学習し、いつの間にか自力で生きるすべを獲得していたたくましさにほれぼれとしてしまいます。アトリとカティンの姉妹愛が美しく物語の幕を引くラストは必見です。