『八月のひかり』(中島信子)

八月のひかり

八月のひかり

児童文学に親しんでいる大人がこのタイトルをみると、戦争児童文学なのであろうと予想することでしょう。物語のはじまりは8月6日、市役所の広報スピーカーから「黙祷」の放送が流れます。物語の最後は8月14日で、主人公の美貴はテレビの戦争特別番組を見ます。しかしそれらは物語の後景にすらならず、美貴はそれになんの感慨も抱きません。わたしはこれを「戦後」「戦後児童文学」に対する決別宣言であると受け取りました。戦争を語り伝えることはもちろん大事です。でも、現在の子どもをめぐる状況を考えれば、もっと優先すべきことがあるはずです。
作品の内容を一言で説明するなら、現代の貧困家庭の物語です。子どもの7人に1人は相対的貧困であるとされる現代では、決して特別な環境の物語とはいえません。主人公の美貴は、弟の日記にその日食べたもののことしか書かれていないことに衝撃を受けます。しかし、物語のなかも食べ物の話題で埋め尽くされており、章タイトルもすべて料理の名前になっています。人としての尊厳を奪われるとはどういうことなのかということを、あまりにも直截に描き出してしまっています。