『湖の国』(柏葉幸子)

湖の国

湖の国

高校に通わず、こっそり介護施設でアルバイトしていたミトですが、その居場所も親に奪われてしまいます。そこで、介護施設で知り合った沢井のおばあちゃんの家を無断借用して家出をしようとたくらみます。沢井のおばあちゃんの家は、東湖と北湖というかぎ形の湖に囲まれたところにありました。ところが、湖から大波が上がり、巨大な船が浮上、そこから介護施設にいるはずの沢井のおばあちゃんが出てきました。ミトは沢井のおばあちゃんとふたり暮らしをすることになりますが、どうもそれは本物のおばあちゃんではないようで、思いがけない事件に巻き込まれることになります。
水といえば、死の世界の象徴です。直近の柏葉作品であれば、『岬のマヨイガ』が思い出されます。それは「寛容」でありながら恐ろしさも持っています。この世とあの世の境界を越え、時間の境界を越えというテーマは、『帰命寺横丁の夏』にもつながってきます。近年の柏葉作品は非常に難解なテーマに挑んでいるので、まとまった評論が出てほしいところです。
この作品は家出物語でもありますが、家族への未練の薄さという点ではかなり突き抜けています。『岬のマヨイガ』も家族を捨てる話でしたが、それよりも先をいっていて、ミトは家族のことなどほとんど思い出すこともなく新しく出会った世界に向かって進みます。