『一富士茄子牛焦げルギー』(たなかしん)

一富士茄子牛焦げルギー

一富士茄子牛焦げルギー

意味がわからないけどなんとなくおめでたそうなことだけはわかる、このタイトルの吸引力が尋常ではありません。
牛のような巨大な茄子につれられて富士山に行き、富士山に餅が焦げないようにしてほしいと願い事をした、願い事はもうひとつ残っている。正月の朝におとんが「ぼく」に意味不明な夢の話をしてきました。ところが実際、餅は焦げなくなっていました。しかも、twitterで検索したところ同じ現象が至るところで起こっている模様。富士山の願い事が現実だと知ったふたりは、残された願い事の活用法を考えます。
冒頭のおとんと「ぼく」のかけあいの軽妙さがすばらしいです。しかしはじめの明るさから一転、物語は暗い方向に進んでいきます。
我々欲深い人類は、超自然的な存在が願い事を叶えてくれる事態を想定して、さまざまな対処法を研究してきました。その研究成果(特に「猿の手」という論文)から学べばわかることですが、ふたりの頭によぎった願い事は残りの願いがひとつしかない場合は絶対にしてはならないやつです。
あとがきで述べられているように、この作品は作家の私怨で成り立っています。そのため、熱量が常軌を逸した高さになっていて、異様な迫力が出ています。