『クレンショーがあらわれて』(キャサリン・アップルゲイト)

「ネコがいちばん 犬はるすばん」

ジャクソンはプールでサーフィンをしているネコを見ます。それは、しばらく姿を現していなかった想像上の友だちのクレンショーでした。以前よりも大きくなっているクレンショーは、ジャクソンにとって不吉な存在に思えました。なぜなら、クレンショーが初めて出現した3年前は一家が貧困のどん底に陥って住居を失いミニバンで生活してたときだったからです。ジャクソンは再びあの生活がもどってくるのではないかとおびえます。
父親は難病で母親は非正規雇用労働を掛け持ちしています。両親はさまざまな手を打とうと努力するものの貧困から抜け出すことはできません。「パパとママは、どうしてほかの子の親みたいになれないの?」と子どもから問われるという地獄を経験します。大人目線で読むと、親の方に感情移入してしまって本当にキツいです。
貧困の描写にリアリティがあります。ミニバン生活でつらいことはみんなの足の臭さだというのは、綿密に取材しなければ出てこない発想でしょう。
主人公の造形も興味深いです。ジャクソンは、着ぐるみに中の人がいることや手品にタネがあることを暴いたりしてしまうタイプの理系少年でした。ジャクソン自身も、自分は空想上の友だちを持つような人間ではないと思っています。そんな現実的な彼が主人公だからこそ、クレンショーという〈魔法〉の存在がかけがえのない意味を持ってきます。