『白狐魔記 天保の虹』(斉藤洋)

天保の虹

天保の虹

人間の業を見つけ続ける不老長寿の狐白狐魔丸の物語の第7弾。
今回狐が出会う人物は、鼠小僧次郎吉大塩平八郎です。狐は鼠小僧次郎吉に同情的で、偽の鼠小僧や大塩平八郎には批判的。「どうしてもなにかになりたいが、なれず、なれたら死んでもいいと思うばか」を痛烈に批判します。
白狐魔丸の役割はあくまで観察者なので、人間の世界の出来事には一定の距離をおいています。それに対し、人間に重い感情を抱きさまざまな行動をするという意味では、雅姫様の方が主役にふさわしいという見方もできます。生まれ変わりを繰り返す思い人の幻影を追い、最終的にそれを看取らなければならない雅姫様の運命は、非常に悲劇性が高いです。この展開が何度も続いているので、雅姫様はループものの主人公のようになり、背負うものがどんどん重くなっていきます。今回は、後ろ姿を描いた高畠純のイラストも相まって、雅姫様の激情が特に強く迫ってきました。
一方で、虹というモチーフを効果的に使い、さわやかでありながら悲哀のあるよい空気感を出しているところも印象に残ります。
源平の合戦から始まったこの長いシリーズも、これで江戸時代の後期まで進みました。もうすぐ武士の時代が終わり、近現代に突入することになるはずです。新時代の人間の姿を、白狐魔丸や雅姫様はどのように論評するのか、楽しみなような怖いような……。