『落語少年サダキチ(さん)』(田中啓文)

落語少年サダキチ(さん) (福音館創作童話シリーズ)

落語少年サダキチ(さん) (福音館創作童話シリーズ)

絶好調の「落語少年サダキチ」シリーズ第3巻。なぜだか老人会のイベントで落語を披露させられることになったサダキチ。同じイベントに小学生漫才コンビカピバラ兄弟」も出演するので、異種芸能バトルとなり、負けたら尻文字という屈辱的な罰ゲームも科されてしまいます。負けるわけにはいかないサダキチは、またも難しい演目「住吉駕籠」に挑戦しようとし、迷走します。
落語と漫才の勝負の行方は作品を読んでのお楽しみですが、桂九雀の解説でもこのテーマに触れられています。おもしろさでは漫才にかなわず、演技では演劇にかなわず、ストーリーでは小説にかなわないと、自虐をからめながらも落語のよさを伝えていく手つきが巧妙です。
物語の方は、もうおもしろいに決まっています。小学生同士の確執に老人会の闇・家庭の悶着といった多くの要素を、江戸時代に逃亡するといういつものお約束でまとめあげ、終始笑って読める作品に仕上げています。
田中啓文は多彩なジャンルで活躍している作家ですが、家庭問題のパートではSF作家としての側面を強くみせています。お約束のタイムスリップをお約束の展開に絡め、しっとりとしながらも笑える独自の世界に仕立てています。また、こっそりクトゥルー作家としても面もみせています。わざとでなければ「なんとかダゴン」なんて言い間違いはしないでしょう。
ブックデザインもこのシリーズの見どころのひとつです。2巻までのデザインのクレジットは「祖父江慎+鯉沼恵一(コズフィッシュ)」となっていましたが、今回は「鯉沼恵一(ピュープ)」となっていました。でも、毎回工夫が凝らされているタイムスリップの場面は今回がもっとも秀逸だったのではないでしょうか。「ふっ」と消えるさまを薄い文字で表現し、背面のイラストが薄く見えるとことを利用してふたつのページを融合させ、そこに小さな猫のイラストを配置するセンスのよさ。このページは見入ってしまいました。