『友だちをやめた二人』(今井福子)

友だちをやめた二人 (文研じゅべにーる)

友だちをやめた二人 (文研じゅべにーる)

  • 作者:今井 福子
  • 出版社/メーカー: 文研出版
  • 発売日: 2019/08/01
  • メディア: 単行本
タイトルとカバーイラストから、友だちをやめて恋人になるということかと脊髄反射で理解し、いや、普通に考えて親友になるってことだよねと思い直してから読みました。そしたら、いろんな段階をすっとばして右の子が左の子に「いま、わたしといっしょに×××くれる?」という激重なおねだりをしてきて驚愕。2019年の百合児童文学は、こちらの想定を軽々と飛び越えてくれるので油断できません。
気弱な性格の七海は、自分とは正反対の活発な性格の結衣とずっと仲良くなりたいと思っていました。家が近くて同じクラスになることも多く、一緒に捨て猫を拾ったりといったふたりの思い出もあるのに、5年生になってもいまひとつふたりの距離は縮まりません。
人は異質な他者に魅力を感じるものなので、捨て猫をみたら現実的にすっぱりとその処遇を考えたり、公園に誘っていきなり泣き出したかと思えばそのあとすぐ倒立のやり方を教えてくれたりといった結衣のわからなさは、七海をかき乱し結衣への思いを増幅させていきます。そんな他者との関わり方が幸福感たっぷりに描かれていて、安心して子どもに手渡せる児童文学になっています。
七海にはふたりも年長の導き手がいることも、この作品の安心感につながっています。ひとりは姉で、結衣と同じようなさっぱりした性格で、ずっと七海の憧れの対象になっていました。もうひとりは祖母。「人はね、一人では生きられないけど、一人でなくちゃ生きられないのよ」などと深みのあるっぽいアドバイスを与えてくれます。
ただし、祖母とは死別し姉も進学で家を出ることになります。実はこの物語は、七海にとって保護者喪失の物語でもあるのです。であるからこそ、「一人でなくちゃ生きられない」人間が他者を求めることの切なさが輝きを増していきます。