『もうひとつの曲がり角』(岩瀬成子)

もうひとつの曲がり角

もうひとつの曲がり角

転校してから英会話スクールに通っている小学5年生の朋は、スクールが休みなことを知らずに行った日に思い立って、郵便局の角の脇道に入ってみることにしました。そこで見つけたのは「喫茶ダンサー」という看板のある店。その庭で「冷蔵庫のなかだなんて、まっぴらごめんよ」という不思議な朗読をしているオワリさんというおばあさんに出会います。朋は英会話スクールをさぼってオワリさんのところに通い詰めることになります。ところが、何度目かに例の曲がり角に入ると周囲の雰囲気がまったく変わり「喫茶ダンサー」が見つからず、今度はレンガ塀の上に立っている同年代の女子と出会います。朋はふたつの曲がり角に出入りを繰り返すことになります。
将来のためだからという親の命令で行きたくもない英会話スクールに通わなければならないという朋の悩みは、最近の児童文学の流行である貧困家庭の子どもの困難などと比較すれば、軽いものにみえるかもしれません。しかし、個人の不幸に序列をつけることは無意味です。この作品を読んでいると、真綿で首を絞められるような苦しさが迫ってきます。やりたくないことを続けると精神が死ぬということを強制的に理解させられてしまいます。その一方で、曲がり角というアジールの輝かしさもたっぷりと描かれてます。
手練れの技に感嘆するしかないという感じの作品でした。