『スパイガールGOKKO 極秘任務はおじょうさま』(薫くみこ)

ベテラン作家による80年代風味のエンタメ児童文学のシリーズの第2弾が出ました。
演技力抜群のあかり、文武両道のキト、奇怪な言語を話すモヨヨ。箱根の小学校に通う6年生女子三人組は、「GOKKO」というスパイチームを結成し、日々スパイに必要な「すぐれた観察力と判断力、的確で大胆な行動力」の鍛錬に励んでいました。そんな三人組に、名門おじょうさま学校白雪学園から依頼が来ます。桜小路家という名家のおじょうさまが転校してくることになったのですが、その子は転学の手続きに必要な夏休みのオリエンテーションへの参加を拒否します。経営難で桜小路家の提示した寄付は欲しいから学校側は転学を認めないわけにはいきませんが、体面を考えると手続きを省略することもできません。そこで、「GOKKO」のメンバーを替え玉としてオリエンテーションに参加させようともくろみました。「GOKKO」は張り切って依頼を受けますが、思いがけない事件に巻き込まれることになります。
秘密基地とか潜入とか変装とか、小学生の琴線に触れるワードがたくさん出てくるのが楽しいです。そして、起こる事件もいい具合の温度。安心して読めるライトミステリになっています。
でありながら、実は異文化理解という深いテーマ性も織り込まれています。演技派のあかりが替え玉役を引き受けますが、まず必要な訓練はおじょうさま言葉をマスターすること。庶民の小学校に通う三人組にとっては、まったくの異文化です。理論派のキトは、「言葉づかいというものは、その人の価値観、所属する層を示すものであると同時に、その人が無意識のうちに自分と、まわりを欺くために用いられる道具でもあります」と講釈します。言葉を学ぶことは、異なる層の人間を理解するための第一歩にほかなりません。ただしその訓練は、「うるさいヤツ」を「お元気な方」と言い換えるようないやみギャグにもなっているわけですが。
そして、潜入先で事件に巻き込まれると、あかりはお世話係のおじょうさま麗と急造チームを作って犯罪者たちに立ち向かうことになります。この異文化のふたりのあいだに友情が成立するのかどうかというのがみどころです。そこで関わってくるのは、やはり言葉です。友だちというのは、よくも悪くも影響を与えあうもの。「オソレ」「オソレ」「ゴキ」という意味不明な言葉が、うるわしい異文化交流の媒介物となります。