『レディオワン』(斉藤倫)

レディオワン (飛ぶ教室の本)

レディオワン (飛ぶ教室の本)

飛ぶ教室」2018年4月号・7月号・10月号・2019年1月号に掲載された作品に書き下ろしを加えた本です。バウリンガルのすごいやつで人間の言葉を話すことができるようになった犬のジョンが、ラジオのDJをする話です。
第1話のフリートークでジョンが語るのは、公園のベンチで泣いている制服を着た女子に出会ったエピソードです。もうすぐくる卒業式を思って泣いていることを知ったジョンの飼い主は、「第二ボタンとか、もらうといいわ」とアドバイスします。しかしそれは間違った推理で、真の探偵役のジョンは人知れず真相にたどり着きます。
飼い主の勘違いがうまい具合に誘導してくれるので、読者は比較的容易に真相を看破することができるはずです。第1話は、よくできた小粋な日常の謎ミステリになっています。
おもしろいのは、ジョンの探偵役としての仕事は2段階になっているというところです。事件の謎解きは、人間の言葉をしゃべれるラジオ内で繰り広げられます。しかし、事件の現場である公園ではジョンは話すことができません。そのためジョンは、言語を介さないコミュニケーションで女子を救い、事件を解決するのです。
しかし、読み進めていくと徐々に斉藤倫らしい病みが姿を現してきます。昔ジョンが多数の犬たちと檻に閉じ込められていたとき、人間が「ショブン」という言葉を発したときに仲間の犬が外に出されることに気づいて、意味もわからず「ショブンして! ねえねえ! ショブン!」とはしゃぎまわったというエピソード。心療内科の医師をしている飼い主が「にんげんは、もうだめ」と語るエピソード。児童文学作家としての斉藤倫を初期から知っている読者は、そういえばこの人は「ころして ねえ ぼくをころして!」「こここころしてねえこここころころころころころころ」の人だったなあと思い出すことでしょう。
ここぞというところでひらがなを多用したりする手法にはややあざとさも感じられますが、斉藤倫の言葉はやはり強いです。ただし、その言葉の強さは絶望を語るときにも希望を語るときにも同等のはたらきをしているので、結局どっちなのかわかりにくいところに、斉藤倫作品を読むさいの難しさがあるような気もします。
以下のリンクは、金原瑞人と斉藤倫の対談です。参考にどうぞ。
https://note.com/saito_rin/n/ncd171c497e58
https://note.com/saito_rin/n/n5a08ccc4da7d