『火狩りの王 三 牙ノ火』(日向理恵子)

火狩りの王〈三〉 牙ノ火 (3)

火狩りの王〈三〉 牙ノ火 (3)

人が火に近づくと人体が発火して死んでしまうようになった未来を舞台にしたポスト・アポカリプスSF児童文学「火狩りの王」シリーズの3巻が出ました。いよいよ首都に戦火が及び、人と改造人間と神族の戦いが激化。物語はさらに血なまぐさくなっていきます。
各陣営が開示する世界の秘密は、いまのところどこまで信用してよいのか定かではありません。おそらく、神話や伝承のかたちで伝えられる情報は疑ってかかった方がよいのでしょう。確かな情報には、科学的裏付けが求められます。そういう観点からおもしろかったのは、死体が穢れとされる理由でした。その理由は、死体が燐火を発生されるからだというものでした。そりゃ、火に近づくと死んでしまうこの世界では、死体が忌み嫌われるのは合理的といえます。シリアス場面なのに、このこじつけには笑わされてしまいました。
さて、各陣営が入り乱れて殺し合うしっちゃかめっちゃかな状態の中で、主要登場人物の感情が高まって物語を盛り上げいきます。明楽に火狩りの王になってもらいたいが、狩る対象の〈揺るる火〉が少女の姿をしていることを知ってしまい明楽の決心が鈍るのではないかと心配する灯子。妹の緋名子を守るために兵器開発にまで手を染めてしまったのに、すべてが裏目に出てしまった煌四。永い時間姉神を救いたいと願い続けているのに、やはり願いを果たせそうにないひばり。それぞれ背負う悲劇性が、作中人物の魅力を増幅させていきます。はたしてそれぞれの思いは報われるのか、続きが気になります。