『怪盗ネコマスク 真夜中の小さなヒーロー』(近江屋一朗)

ぼくたちは弱い。
弱くてかっこわるい。

猫のパワーを身につけることができる不思議なマスクを手に入れた小学6年生三毛ハルトは、同じような動物のマスクを持つネズミと白キツネと出会います。どうやら強い動物のマスクがあるとさらにパワーアップできるらしく、強力なツキノワグマのマスクの争奪戦が始まります。
主人公のハルトは、勉強も運動も苦手で虚弱体質。彼の虚弱さは軽くギャグタッチで描かれていますが、内容はガチです。虚弱体質の子どもにとっては、体育の授業そのものが暴力でしかないということを描いてしまっています。
そんなハルトですが、同じく運動の苦手なモッチーと仲良くしていました。このふたりはお互いにかばいあう優しい世界を築いています。しかし、優しい弱い者同盟には脆弱性もあります。この関係は弱い者同士でないと成立しないので、相手が弱いままでいてほしいと願ってしまういびつさを持っています。児童文庫の軽快な文体ながら、この作品は弱い子どもの暗部のかなり深いところに踏みこもうとしています。
では、変身ヒーローになって力を手に入れることができれば、弱さかっこわるさから脱却できるのでしょうか。より現実的に言い換えれば、頑強な身体が手に入れば強くなれるのか、銃を手に入れて気に入らないやつを黙らせることができるようになれば強くなれるのかという問いです。そんなことで弱さを捨てられるわけがありません。あえて変身アイテムという非現実的な要素を取り入れることで、そのどうしようもない苦さが増幅されます。
この作品は、人は弱くてかっこわるいままで生きていかなければならないという絶望とともに、弱いままで人は善き生き方ができるのだという希望も語っています。弱さに正面から向き合う作品の真摯な姿勢が、得がたい感動を生み出しています。