『俳句ガール』(堀直子)

俳句ガール

俳句ガール

「ぼけぼけ」になってしまった祖母の世話で母親が家を出ることが多くなったので、小学4年生のつむぎはいつも家事の手伝いで大忙し。学校では変わり者のミナミとつるんでいて、クラスの中心から外れています。祖母がデイサービスで通っているホームで俳句を楽しんでいることを知ったつむぎは、ある日の放課後むしゃくしゃした気持ちを黒板にぶつけ「赤とんぼ ちぎれた羽を かえしてよ」と俳句らしきものを刻みます。ところが翌日学校に行くと、つむぎの言葉に返事をするように「赤とんぼ 食うネコののど なめらかだ」という俳句が隣に書かれていました。
つむぎともうひとりの犯人の犯行の本質は、教室にふたつのものを密輸入することでした。ひとつは芸術、もうひとつは匿名性です。これにより、学校の秩序が混乱します。やがて先生の発案でクラスで俳句大会が開催されることになりますが、その評価法は作者を伏せたうえでの投票になりました。ここで、スクールカーストに地位を保証されていた子どもたちははしごを外されてしまい、ふだん目立たない子が通常では許されない逆転の可能性を得ることになります。学校の制度を攪乱することを狙った、なかなか戦略的な設定です。
作中に出てくる、小学生がつくったという設定の俳句がそれほどうまいようにはみえないのがいいです。技巧を凝らすことよりもまず感情を表出することが大事だというのがこの作品の眼目のはずですから、そこのが舵取りが成功しているといえます。