『ゴーストダンス』(スーザン・プライス)

ゴーストダンス (ゴーストシリーズ)

ゴーストダンス (ゴーストシリーズ)

伝説的な暗黒児童文学ファンタジー『ゴースト・ドラム』の続編完結編。残酷な皇帝が支配する極寒の地の物語という設定は変わりません。今回は死を恐れる皇帝の元にイギリス人の(インチキ)魔法使いがやってきて、不死の秘法を餌に皇帝に近づいて地位を得ようと画策します。
1,2巻では現実世界とのとのつながりを思わせる具体的な固有名詞はほとんど出てこなかったのに、3巻にはイギリスをはじめとして現実の地名がたくさん出てくることに驚かされます。1巻では、強引に現実とのつながりを読み取れるのは、ニワトリ脚の家に住む魔女というのがバーバ・ヤガーを連想させるということくらいでした。2巻も、「ラップ人」という言葉が出てくるのと、ロキやバルドルの登場する神話が語られることで北欧神話とのつながりが明らかになったことくらいでした。それと比べると3巻はかなり現実世界に寄せてきたといえます。しかしこれは、作品世界が整然としてきたことを意味するのではありません。現実要素の導入により、作品世界はより混迷を深めていきます。
1,2巻と3巻のもうひとつの大きな違いは、正義という概念が生まれたことであるように思われます。この世界には絶対悪としての皇帝が君臨していますが、義憤や正義感からそれに対峙しようとする存在は登場しませんでした。3巻は、皇帝の圧政に苦しむ人々が魔法使いに助けを求めにいく場面から始まります。魔法使いはまったく取り合いませんが、その弟子のシンジビスは人々に同情して、単身皇帝の元に乗り込んで対決することを決意します。そして、宮廷でのシンジビスとイギリス人魔法使いの腹の探り合いが物語の軸になっていきます。
シンジビスの正義は、作中ではよきものとはあつかわれず、むしろ彼女の未熟さを示すものになっているようです。シンジビスはシロハヤブサに変身する魔法などを使って颯爽と活躍しますが、この世界の魔法の根幹である、死者の世界と行き来する魔法は習得していません。彼女の未熟さは、逆さに吊してピュッみたいな残酷な出来事を生み出し、さらには最悪を召喚してしまうことになります。

これでこの物語は終わった(と猫はいう)。


もしこの物語がおもしろいと思うなら、他の人に話してみるがいい。
もしこの物語が酸っぱいと思うなら、甘くしてやるがいい。
だが、気に入ろうと、気に入るまいと、この物語は自分の道を歩んで、ここにもどってこさせてほしい。ほかの人の舌に乗って。