『〈死に森〉の白いオオカミ』(グリゴーリー・ディーコフ)

いいか、ワシーリーをかみ殺したのは、ただのオオカミじゃない。森の魔物じゃ。背丈は仔牛ほど、毛は真っ白で、眼は赤く、やりだろうと、鉄砲玉だろうと、はじきかえしちまう。

ロシアの田舎の村、ヴィソツコエ村の人々は、古老の警告を聞かず川の向こう岸まで開発を進めようとします。そして、森に住む凶暴なオオカミたちとの戦いを余儀なくされることになります。
と紹介すると、開発への懐疑や環境保護メッセージが語られるお説教くさい話であるかのように思われてしまうかもしれませんが、その心配はありません。この作品は、人類対どうぶつのガチバトルを描いた上質な娯楽読み物になっています。羆嵐! 魔王! 進撃のオオカミ!
ヴィソツコエ村は柵塁に囲まれた村で、殺したオオカミの皮を剥いでそこに干して敵を威嚇したりしていました。しかし最終的にはその防壁も破られ、絶体絶命の危機に陥ることになります。
こういう状況では、有能な助っ人がほしいところですが、そんな期待にも応えてくれます。町でコサックのイカサマ賭博で身ぐるみを剥がれそうになっていたドイツ人のガンマン・ヤコフがスーパーヒーローとして登場します。その出会いの場面も魅力的です。村の天才少年エゴルカがその現場に居合わせ、イカサマを見抜いて逆にサイコロ勝負でコサックたちを打ち負かし、ヤコフに恩を売ることに成功します。
ヤコフは村人たちに銃の使い方を教え戦闘訓練を施し、決戦に備えます。ここらへんは、『マグニフィセント・セブン』(『七人の侍』)みたいで、先の展開に対する期待感がどんどん高まってきます。 
この作品の魅力は、オオカミと銃で戦うといった現実的な要素と、神話や民話的な要素がうまく溶け合っているところにあります。ヤコフにも実は秘密があって、はじめは銃で戦っていたのに最終的には刀と鉄の棒の二刀流で狼を狩る鬼神と化します。
訳者あとがきによると、この作品は現代の作家グリゴーリー・ディーコフが、ロシア革命時代の架空の亡命作家「グリゴーリー・ディーコフ」という仮面をかぶって出版したものなのだそうです。作外の仕掛けも凝っていて、一筋縄では読み解けなさそうな作品になっています。